CGM

ブログやSNSなどの普及が進む中で、こうした生活者からの情報発信はビジネス的にも無視できない存在になりつつある。これらは従来のメディアと区別する意味でも「CGM(Consumer Generated Media:コンシューマ・ジェネレイテッド・メディア)」と呼ばれている。

1)独白系(ブログ、個人HP等)
 WWWが登場した時からHPを作って、個人で情報発信をするという行為は従来の大きなコストと一定の地位を持たなければ情報発信ができなかった状態を激変させ、多くの有名個人HPが登場してきていた。しかし、CMSツールの発展でブログが登場したことで、特にリテラシーを必要としなくなったことで誰もが個人HPを持てる状態が現れた。誰にも気兼ねせずに一人でも言いたいことを言い、別に見られていなくても個人の日記として書きつづる人が激増している状況である。そうしたブログが個人HPと異なり、今「メディア」として捉え始められた理由として、コンテンツとして面白さがあり、人気になるとトラックバックが増え、検索エンジンのSEO効果が高まり、さらに人気が増え、ブログの人気ランキングにも登場し、さらにアクセスが増えるというスパイラル効果で個人のブログでも高い集客力を持つものが育ち易い土壌が生まれてきていることがあげられる。実際、企業の商業サイト並の「メディア」としての価値を持つブログが増えてきている状況である。

2)掲示板系(2ch)
 2chに代表されるテーマ毎に意見を重ねる形で進行する掲示板である。その場のリアルタイムな雰囲気などで大きく内容が左右されるが、匿名性が高いことと、個別のスレッドには中心的な管理者が存在しないため、"荒し"と呼ばれる発言も多く、誹謗中傷が起きやすくビジネス的にはネガティブに捉えられることが多い。大衆心理作用も働きやすいため、2chなどでは通称"祭り"と呼ばれ雰囲気が激情化する状況も生まれる。リアルタイム性の高いニュースや出来事では逐一実況する人も多数現れ、多元生中継のような状況も生まれている。実際地震の発生時などはニュース以上にきめ細かい局地的な状況の把握や安否確認などに使われ始めており、多次元同報という新しいメディアの可能性も見え始めているとも言えるだろう。別の側面として時間軸の進行の中でストーリー性を持ったものが、後日編集されて「電車男」など書籍というメディアの形になることも生まれ始めている。

3)パーソナルコミュニティ系(エキサイトフレンズ、ヤフーチャット等)
 いわゆる「出会い系」と呼ばれていたような個人と個人を結びつけることを目的としたサイトも最近は形が変わりつつある。男女のお手軽な出会いサイトの段階では年齢や性別とコメントなどの情報が交換される簡単なものであったが、最近は幅広い趣味のコミュニティが形成されていたり、アバターのようなバーチャルなキャラクターで自己表現を楽しんだり、チャットでリアルタイムの井戸端会議を行うなど必ずしも男女の出会いに重点をおいていない要素も増えてきている。しかし、ベースのパワーはやはり男女の出会い欲求であり、そのことが来訪者と来訪頻度を高く押し上げており、メディア価値の形成に繋がっていると言えるだろう。

4)テーマ口コミ系(@cosme、価格コム、関心空間等)
 化粧品に関する口コミを大量に集めている@cosmeや、家電やPC系の価格比較と口コミを集めている価格コムなど、消費者が商品を購入する際に参考にする口コミ情報を集積させたサービスが増えてきている。高い購買意欲を持った人が多数訪れていることが明白なため、以前はネガティブな情報が口コミで流れることを恐れる傾向もあったメーカーもこのところは積極的に広告を出し始めている。@cosmeでは一人の人が同じところでは1回しかコメントできないなど、掲示板で見られる荒しが起きにくい工夫をするなど、口コミの集積メディアとしての工夫を凝らしている。同様にブログに近い構造で商品の口コミなどを集積させている関心空間も通常のブログよりも高いCTR(クリックスルーレート)を出すなど、購買意欲や興味を喚起しやすいメディアとしての特性を実証している。

5)クローズSNS系(mixi,gree等)
 そしてここに来て大きく盛り上がっているのがSNSである。昨年までは日本ではまだ一部のオタク的な人が利用するものと見られていたが今年に入り、一般の人々を急速に獲得している。特にmixiはすでに160万人の利用者を突破し、急激に成長が行われるブレーク段階に入ったと言えるだろう。SNSの持つ利点として知り合いの信用に基づいた人の範囲でコミュニケーションできることの安心感と、読み手をイメージしながらコンテンツを作成しやすいというところがある。それからmixiは、"足あと"機能で誰が見に来たかが判明するため、反応がわかりやすく、コミュニケーションをとりやすい構造を持っている。これらからメディア価値のひとつの指標でもあるスティッキネス度(高いリピート頻度や長い滞在時間など)はとても高く、PVも大きいので広告価値もありメディア価値もあると言えるが、あくまでもクローズなメディアであるというところが特殊性も多く持っている。

こうした市民ジャーナリズムや口コミの台頭は既存メディアのビジネスモデル上の弱点が大きくなってきていることにも起因する。

・ 新聞離れ、テレビ離れなど流通側に起因する問題から利用者に見てもらうパワーが
 落ちてきており、課金、広告モデルとも収益性に不安が残る。
・ ジャーナリズムとしての記者の育成や質の担保、広告主からの独立性などが市場
 原理の収益性の追求と矛盾する点が顕在化してきている。
・ 双方向性などITによって可能になった新しい情報コミュニケーションを活かせる
 土壌が無い。

これらのベースには、「少しでもたくさんの購買意欲がある人達に見てもらいたい」という広告のビジネスモデルを内包したメディアが、高いジャーナリズム性を維持していくことの難しさが根底にあると言えるだろう。そもそもたくさんの人が集まるところに広告を出すということであればマスメディアの優位性はまだ多少あるのかも知れないが、サーチエンジンの登場で細かいブログも集積させることが可能になり、人を集めるというよりは、効率的に送り込むことが可能になりそれなりの規模の人にリーチすることは可能になっている。さらに「購買意欲のある人」という質的意味ではすでにCGMの方が優位性は高い。自分の興味のある話題の口コミや同じような興味を持つもの同士のコミュニティに属しているだけで、誰がどんな目的で見ているかさえもわからないマスメディアに比べると圧倒的な優位性を持つ。

これだけであれば、消費者が発信した情報を見に来る人に対して広告を出すというモデルは、あまりマスメディアのモデルと変わらないようにも見えるが、実は大きな違いがある。CGMのビジネスモデルの最大の特徴は、発信された口コミ情報などの知識情報を買いたい人や売りたい人に役立てるように流通できるというところである(図表参照)。GoogleのAdSenseのように、記事の中身を解析して最適な広告をマッチングしたり、アフィリエイトで興味を喚起した直後に購入させる手段の登場など、インテリジェントな情報技術の登場により、それまで役には立ってもお金にならなかった情報に価値を作り知識流通させることが可能になった。ひとつひとつは細かいビジネスであるが、まさにロングテールを紡ぐことでその市場は巨大なものに変貌しようとしている。

こうしたCGMはますます巨大化していきそうな予感ではあるが、個人が情報発信を安心して続けていくには考えておかなければいけない点もある。個人が様々な情報発信を行うことで、それが匿名で行われていたとしても個人の特定化がしやすくなることや、ビジネスとしてそれを利用したいと思う企業などが個人を評価し、それがあるルールで単純化されて利用が進むリスクもある。例えばビジネス中心にブログで発言している人がちょっと息抜きにアダルトについての発言を3回、アダルト系のコミュニティに1つ参加したとする。そのことで、例えば「アダルト大好きな人格」とどこかのビジネスロジックで決めつけられ、その後そうした広告ばかり出てくるようになることは悪夢である。

またビジネス上の友人とプライベートな友人両方が自分のブログを読んでいることが判明した時に書き手がどちらも意識して書くことが難しくなる局面も出始めている。テーマが決まっている口コミサイトであればそうした問題も少ないだろうが、ブログやSNSなどの個人のライフスタイルを広く発信していくCGMでは個人の生活全てをオープンに発信することで、ビジネスとして企業に利用されたり、過去にさかのぼってプライベートを知られてしまう(新しい彼女に、昔の恋人のことをSNSで簡単に調べられてしまうなどの事例がでてきている)など新しいリスクが登場すると思われる。

現代の人間は多様なコミュニティに同時に属しており、様々な人格も持つ人である。そうした多元的なコミュニティに属することとそれに応じたコミュニケーションを実現するためにはCGMの中で多様な人格を同時に持てて、コントロールする仕組みが今後は重要になるだろう。プライバシーを守る暗号化の次には中間の匿名性を維持できるテクノロジーがCGMを健全に発展させるためにも今後の重要な鍵を握るだろう。プライバシーは対象や時間軸でもその意味と重要さが変化していく社会になるということでもあるとも言えるだろう。

サイバースペース上に生まれている無数の個人の情報の集合体であるCGMは、試行錯誤の玉石混淆の中でも確実に利用者にとって魅力的なコンテンツを創り、それを選別する技術も日々生まれている。さらには広告ビジネスという資本主義のマネーを魅力的に吸い寄せる手段を持ち、ビジネスとしても飛躍の時を迎えている。また、既存のメディアが持つジャーナリズムとしてのパワーや質の高いコンテンツ開発力は同時に存在できるものであろう。垂直統合されているマスメディアが有効なファンクションをアンバンドリングし、CGMを取り込んでいくことで両者ともに新しいステージへ発展できるとも筆者は考える。そういう意味では光ファイバーでコンテンツ配信できることや、テレビとオンラインショッピングの融合という視点とは別に旧来メディアがCGMをうまく統合させながら新しいメディアへと再編するためにネット企業を統合することも、ひとつの必然として進むのではないだろうか。

(藤元健太郎 2005.10)
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by jagxj6 | 2005-10-27 00:37 | IMC
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